前橋地方裁判所 平成10年(ワ)20号 判決 2000年1月13日
原告
学校法人群英学園
右代表者理事
中村有三
原告
中村有三
原告ら訴訟代理人弁護士
内田武
同
横田哲明
原告ら訴訟復代理人弁護士
本木順也
被告
松永昌之
被告
久保田正行
被告ら訴訟代理人弁護士
樋口和彦
同
嶋田久夫
主文
一 被告らは,原告学校法人群英学園に対し,連帯して金100万円及びこれに対する平成10年2月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
二 被告らは,原告中村有三に対し,連帯して金100万円及びこれに対する平成10年2月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は,2分し,その1を原告らの連帯負担とし,その余を被告らの連帯負担とする。
五 この判決の原告ら勝訴部分は,仮に執行することができる。
事実
第一原告らの請求の趣旨
一 被告らは,原告らに対し,読売新聞群馬版,朝日新聞群馬版及び上毛新聞に別紙1<略>記載の謝罪広告を同記載の条件で1回掲載せよ。
二 被告らは,原告学校法人群英学園に対し,連帯して金1000万円及びこれに対する平成10年2月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
三 被告らは,原告中村有三に対し,連帯して金1000万円及びこれに対する平成10年2月12日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は,被告らの負担とする。
五 右二,三項について仮執行の宣言
第二原告らの請求原因
一 原告学校法人群英学園(以下「原告学園」という。)は,進学予備校「群馬英数学舘」の経営等をする学校法人であり,原告中村有三(以下「原告中村」,又は「中村理事長」という。)は,原告学園の理事長である。
平成9年7月当時,被告松永昌之(以下「被告松永」という。)は,原告学園の国語科専任講師として勤務し,指導部長であり,被告久保田正行(以下「被告久保田」という。)は,原告学園の事務次長であった。
二 被告らは,平成9年7月7日午後3時30分,群馬英数学舘において,原告中村,理事中村義寛(副理事長),理事中村茂(事務長),理事中井正敦(館長,以下「中井」という。)(右4名を以下「原告中村外3名」ということがある。)に対し,突然に面談を要求したうえ,何らの根拠もなく憶測で原告中村が原告学園の資金を不正に流用しているように主張し,例えば,原告中村が子供の留学費用や原告中村宅の改築費用に原告学園の資金を流用した等の虚偽の事実を記載した文書を提示し,原告中村外3名に対し,即刻理事を辞任するように迫り,仮にそれが受け入れられない場合には,右虚偽の事実をマスコミに公表する,マスコミを5時に待たせてあるなどと言って,原告らを脅迫,強要するとともに,原告らの名誉を毀損した。
三 被告らは,平成9年7月8日のほか,同月11日ころ前橋育英高校教職員組合(以下「高校組合」という。),育英短期大学職員組合(以下「短大組合」という。)を訪ね,両組合員らに対し,原告中村が原告学園の資金を不正経理により流用して横領し,原告学園を私物化しているなどと具体的事実を話して誹謗中傷し,原告らの名誉を毀損した。
四 平成9年11月6日の件
1 原告学園は,前記二の状況等から被告らが原告学園内で通常どおり勤務するのは不可能と判断し,平成9年7月16日付で被告らに対し自宅待機を命じたが,被告らは,同年11月6日,右処分無効確認等請求を提訴した。
2 被告らは,右提訴をした直後の平成9年11月6日中に,群馬弁護士会館内において記者会見を開き,マスコミ各社の記者らに対し,原告中村が原告学園の資金を私的に流用している旨を公言し,更に証拠がある旨も付加して強調し,請求書等の書類の写しを配付しては,その文書が原告中村が自宅の改築資金を原告学園の資金から流用した証拠である旨を申し立てた。
そのため,右マスコミ各社は,平成9年11月7日付群馬版等の記事において,あたかも原告学園及び原告中村に不正流用等の不正経理問題があるかのように受け取られる記事を掲載した。
例えば,同日付読売新聞の記事には,「不正追及で自宅待機の予備校教師ら」の見出しが踊(ママ)り,その内容も「理事長らは,自らの保身のために,原告からの要求を圧殺し,不正経理をヤミに葬ろうとしている」,「原告側は,不正経理の証拠として「学園」が発注した建設工事の請求書なども裁判所に提出した」などと,原告中村が原告学園の資金を流用した旨の被告らの断定的な意見が記事として掲載された。
その結果,原告らの名誉は毀損された。
五 被告らが共同して行った前記二の脅迫,強要及び名誉毀損,三の名誉毀損,四2の名誉毀損によって,教育機関としての原告学園の信用は著しく低下し,また,教育者である原告中村個人の名誉も著しく害されるなど,甚大な精神的苦痛を受けた。
原告らの右精神的苦痛を慰謝するための損害賠償額は,それぞれ1000万円を下ることはなく,特に,前記四2の毀損行為により侵害された原告らの名誉については,これを回復する措置が必要である。
六 よって,被告らの不法行為に基き(ママ),被告らに対し,原告らは,読売新聞群馬版,朝日新聞群馬版及び上毛新聞に別紙1記載の謝罪広告を同記載の条件で1回掲載するよう求めるとともに,原告学園は,連帯して右慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為後で訴状送達の日の翌日である平成10年2月12日から完済まで民法所定の年5分による遅延損害金を支払うよう求め,原告中村も,連帯して右慰謝料1000万円及びこれに対する不法行為後で訴状送達の日の翌日である右同日から完済まで右割合による遅延損害金を支払うよう求める。
第三被告らの認否
一 請求原因一の事実は認める。
二 請求原因二について
1 同事実中,被告らが原告中村ら4名との面会を求めたこと,被告らが不正経理問題を指摘し,これらに関する文書を提示し,右4名の辞任を求めたこと,このときの話し合いが決裂したことは認め,その余は否認する。
2 被告らの右申入れは,群馬英数学舘においては,平成8年度及び平成9年度のベースアップがなく,平成8年の期末手当支給率が例年の半分となり,平成9年の期末手当が全く支給されなくなったが,その原因の1つとして,原告中村をめぐる不正経理問題があると考え,労働条件と職場環境の改善をはかる目的で行ったものである。
右の不正経理問題とは,有限会社A工営(以下「A工営」という。)が高進舘2号館,3号舘の改修工事をしていないのに,昭和59年11月26日,当時の法人本部事務局庶務会計課長であった中村茂が同庶務会計主任であった被告久保田に対し,稟議書(<証拠略>)と請求書(<証拠略>)を示して振替伝票を起こすことを依頼したが,被告久保田が右各書類に所定の押印がなかったため,これを断ったところ,右中村が被告久保田に対し「理事長(原告中村)の自宅をA工営が工事しており,長男のアメリカ留学の関係上,理事長も金が必要なんだ。理事長に言われたので,振替伝票を起こしてほしい。」と強く要求され,被告久保田がやむなく,振替伝票(<証拠略>)を作成し,同年11月28日ころ,被告久保田が,右中村の指示により,小切手請求払出伝票を持参して足利銀行前橋支店に行き,670万円を普通預金から下ろし,もしくは当座預金に振り替えて,右中村に現金670万円もしくは金額670万円の小切手を渡し,右中村が原告中村に渡し,原告中村がこれをA工営社長に渡した件のことである。
三 請求原因三の事実中,被告らが,原告中村が原告学園の資金を不正経理に流用して横領し,原告学園を私物化しているなどと具体的事実を話して誹謗中傷し,原告らの名誉を毀損したとの点は否認し,その余は認める。
四 請求原因四1の事実中,原告学園が平成9年7月16日付で被告らに対し自宅待機を命じ,被告らが,同年11月6日,右処分無効確認等請求を提訴したことは認め,その余は知らない。
同2の事実中,被告らが,右提訴をした直後の平成9年11月6日中に,群馬弁護士会館内において記者会見を開いたこと,右提訴について説明したこと,マスコミ各社は,平成9年11月7日付群馬版等の記事において,右提訴等に関する記事が掲載されたことは認め,その余は否認し,争う。
五 請求原因五は争う。
第四被告らの抗弁(名誉毀損について)
被告らが不正経理問題を摘示したことが原告らの名誉を毀損したことになったとしても,右行為は,<1>公共の利害に関する事実にかかり,<2>その目的が専ら公益を図るに出たものであり,<3>事実が真実であり又は真実と信ずるについて相当性があるから,免責され,不法行為とはならない。
第五原告らの認否
抗弁事実は否認し,その主張は争う。
理由
第一 請求原因一の事実(当事者)は,当事者間に争いがない。
第二 被告らの行為(請求原因二ないし五)について
一 右事実及び(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
1 原告学園は,学校法人大利根学園等を経て,平成2年に現在の名称に変更し,予備校として群馬英数学舘及び高進舘を設置運営している。原告学園は,原告中村(理事長)以下の理事6名,監事2名,評議員13名で組織され,理事長は理事会で互選されている。
原告中村は,学校法人群馬育英学園の理事長も兼ねており,同学園は,前橋育英高校,育英短期大学を設置運営している。
2 原告学園の国語専任講師(指導部長)である被告松永,同事務次長である被告久保田は,かねてから原告学園における被告ら,同僚及び部下らに対する処遇,人事ないし勤務条件等に不満を抱き,これを打開するために理事長である原告中村を含む理事らに面談して理事の辞任を要求することを2人だけで密かに計画し,これを平成9年7月16日に決行する予定で準備していた。もっとも,被告らは,仮に理事長である原告中村を含む理事らが辞任した場合にその後任をどうするのか,具体的にどのように原告学園を運営していくのか等について具体的な構想までは検討していなかった。
3 平成9年7月7日の件(被告らの原告中村外3名に対する辞任要求等)
(一) ところが,平成9年7月7日に群馬英数学舘においてボーナスが支給される関係で,原告中村外4名が群馬英数学舘に参集することが同日朝に判明したので,被告らは,2人で相談の上,前記1の計画の決行を急遽繰上げて,右同日にこれを決行することにした。
(二) 同日午後3時30分ころ,群馬英数学舘(応接室)において被告らを含む職員らにボーナスが支給されたが,その直後,被告らは,同室において,原告中村外3名(理事中村義寛,理事中村茂,理事中井正敦)に対し,突然に面談を要求して,次の(1)記載の文書(以下「本件文書1」という。)ないしこれに類似した文書(以下「本件文書1に類似した文書」という。),(2)記載の文書(以下「本件文書2」という。),(3)記載の文書(以下「本件文書3」という。)をそれぞれ席上配付して,即刻理事等を辞任するよう要求し,用意していた辞任届ないし退職届を配って署名するよう迫った。
(1) 別紙2<略>記載の文書(甲六の1であり,後記6のとおり,被告らが平成9年11月6日,右自宅待機処分無効確認等請求を提訴した際の訴状に証拠方法の1つとして添付されていたものである。本件文書1)
被告らが内容について相談した上,被告松永が作成記載して当日持参したもので,その末尾には,「上記内容を違法でないというなら,この文面をそのまま世間に公表し,世間の判断を仰ぐつもりである。」と記載されている。
(2) 別紙3<略>記載の文書(甲六の2であり,同じく訴状に証拠方法の1つとして添付されていたものである。本件文書2)
被告松永が記載作成して当日持参したもので,その1枚目には,「この要求書は要求をお聞き入れいただかなかった場合,世間に公表して,世間に判断していただくための材料として提供するつもりでおります。」と記載されている。
(3) 別紙4<略>記載の決議書と題する文書(甲六の3であり,同じく訴状に証拠方法の1つとして添付されていたものである。本件文書3)
平成5年ころ,中井,被告久保田らが原告中村らの退陣を要求目的で提示するために2部以上作成したが,結局,右要求及び提示は実行するには至らなかったところ,被告久保田がその1部を廃棄しないで保管していたので,これを当日持参したものである。
(三) 中井が辞任すると申し出たが,被告らは,原告中村外3名の全員が理事等を辞任することを要求して譲らなかった。その後,中井は辞意を撤回した。
(四) 被告らは,その要求する原告中村外3名の辞任が受け入れられない場合には,本件文書1ないしそれに類似する文書,本件文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなどと言った。
(五) 右面談は,その後も続けられたが,午後6時ころ,被告らは,席上配付していた本件文書1ないしそれに類似する文書,本件文書2,3,辞任届ないし退職届を回収した上,帰宅しようとし,原告中村らが後で検討する資料としてその場に残しておくように依頼したが,これを断り,回収を強行した。そして,被告らは,一旦帰宅した。
(六) 被告らは,午後10時30分ころ,中村副理事長から電話で呼び出され,再び群馬英数学舘理事長室を訪ねたが,被告らが原告中村外3名が理事等を辞任することを要求して譲らず,原告中村外3名が右要求を拒否したことから,平行線をたどり,結局,午後11時45分ころ,面談は決裂した。
4 被告らは,平成9年7月8日から同月9日ころにかけて高校組合,短大組合をそれぞれ訪ね,両組合役員らに対し,右3の経過,状況等を説明して,以後の協力を求めた。
5 原告学園は,前記3の経過,状況等から,平成9年7月16日付で被告らに対しそれぞれ自宅待機を命じた。
6 被告らは,平成9年11月,前橋地方裁判所に対し,右自宅待機処分無効確認等請求を提訴した(平成8年(ワ)第565号事件,但し,これは同年11月に取り下げられた。)。
右提訴にかかる平成9年11月6日付訴状は,不正経理問題について「原告等による右申入れは,群馬英数学舘において期末手当不支給や職員会議不開催などの問題が発生し,その原因のひとつとして中村理事長をめぐる不正経理問題に関連があると考えたことから,その労働条件の改善をはかる目的でなされたものである。」と言及し,証拠方法として,本件文書1ないし3,請求書,振替伝票及び稟議書(本件訴訟における甲二の1ないし6,六の1ないし3)が添付されていた。
7 平成9年11月6,7日の件(被告らの記者会見等)
(一) 被告らは,右提訴直後の平成9年11月6日中に,群馬弁護士会館内において記者会見を開き,訴訟代理人弁護士らを通じて,マスコミ7,8社の記者らに対し,右の6の提訴にかかる訴状写しを配付するとともに,訴状添付の証拠方法の一部を提示しながら,訴状の記載内容等を説明した。
(二) その結果,平成9年11月7日付読売新聞群馬版の記事には,「不正追及で自宅待機の予備校教師ら処分取り消しなど求め提訴 副理事長「不正経理あり得ない」」の見出しで,「訴状などによると,原告の2人は今年7月7日,理事長らによる不正経理問題に絡み,中村理事長や副理事長ら計4人に辞職するよう申し入れた。これに対して学園側は「理事らに対する脅迫行為だ」として,同月16日,2人に自宅待機命令処分を下した。原告は「理事長らは,自らの保身のために,原告からの要求を圧殺し,不正経理をヤミに葬ろうとしている」と主張している。原告側は,不正な経理が行われた証拠として,「学園」が発注した建設工事の請求書なども裁判所に提出した。訴えに対し,群英学舘の副理事長は「訴状が届いていないので,なんともいえないが,原告らが主張する不正経理は,あり得ないこと。この前税務署も入っているし,裁判でも証明できる」と話している」などと掲載された。
また,同年11月7日付朝日新聞群馬版の記事にも,「「自宅待機処分は無効」予備校講師らが提訴 前橋地裁」の見出しで,「訴状によると,原告の2人は,期末手当が支給されなかったのは,同学舘の不正経理が原因だなどとして,今年の7月7日,理事長ら4名に辞職するよう申し入れた。しかし,法人側は,この申し入れは脅迫行為で懲戒事項にあたるとして,同月16日付で2人を自宅待機処分にしたという。原告2人はこの処分が不正経理をやみに葬るためのもので,理由,根拠がなく違法だとし,処分の無効と,自宅待機中に支払われなかった賃金の支払いなどを求めている。被告の法人側は「訴状がまだ届いていないので,何もいえない」としている。」などと記載された。
更に,同年11月7日付上毛新聞の社会面記事にも,「「自宅待機処分は不当」予備校講師ら提訴」の見出しで,「訴状によると,原告らは,7月7日,労働条件などが改善しないのは,中村理事長をめぐる不透明な経理に問題があるなどと,中村理事長ら経営者側4人の辞職を申し入れた。しかし,中村理事長らは申し入れは脅迫で,懲戒事項に該当するとして,同月16日付で原告2人の自宅待機処分を発令,給与も基本給分しか支払われていない,という。中村理事長は「2人の処分を理事会などで検討しており,2人は自宅待機の状態で,自宅待機処分を下したのではない。給与に関しても基本給を支給しており,管理手当てなどが出ないのは当然」と話している。」などと記載された。
8 原告学園は,人事委員会の諮問を経て,平成9年11月20日付で被告らに対し普通解雇の処分をした。
これについては,被告らは,平成10年2月16日に地位保全等の仮処分決定(前橋地方裁判所平成9年(ヨ)第182号)を得た後,提訴(同裁判所平成10年(ワ)第122号)した。
二 補足説明
1 被告らが,その要求する原告中村外3名の辞任が受け入れられない場合には,本件文書1ないしそれに類似する文書,本件文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなどと言ったこと(前記一3(四))は,本件文書1,2にそれぞれ前記一3(二)(1),(2)の記載があったこと,原告中村の尋問の結果並びに弁論の全趣旨(被告らが当初陳述した答弁書において「被告らが,当日,原告中村外3名と面会したとき,不正経理問題についてマスコミに発表することもあり得ると述べたこと」を認めていたことも含む。)により認められる。
2 (証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば,被告らが平成9年7月7日に群馬英数学舘理事長室において配付した文書のうち,別紙3記載の文書(甲六の2,本件文書2),別紙4記載の決議書と題する文書(甲六の3,本件文書3)については,本件文書2,3が配付され,仮に本件文書2,3と異なる部分がある各文書が配付されたとしても,それらは本件文書2,3と形式的な点で異なるだけで,実質的には同一のものが配付されたものと認められる。
しかしながら,別紙2記載の文書(甲六の1,7頁のもの,本件文書1)についてみると,本件文書1ないしこれと実質的には同一のものが配付されたとは断じ難いところがあり,基本的内容は本件文書1と同一ではあるが,本件文書1に記載のない内容(原告中村らに対する個人攻撃の内容等)も含む文書(本件文書1に類似する文書)が配付された可能性も否定することはできない。
3 原告らは,被告らが,平成9年7月8日のほか,同月11日ころに高校組合,短大組合を訪ね,両組合員らに対し,原告中村が原告学園の資金を不正経理に流用して横領し,原告学園を私物化している旨を話して誹謗中傷し,原告らの名誉を毀損したと主張する。
被告らが,平成9年7月8日から同月9日ころにかけて高校組合,短大組合をそれぞれ訪ね,両組合役員らに対し,前日の経過,状況等を説明して,以後の協力を求めたことは,前記一4のとおりであるが,その際,被告らが両組合役員ないし両組合員らに対し,原告中村が原告学園の資金を不正経理により流用して横領し,原告学園を私物化しているなどと具体的事実を話したことについては,これを認めるに足りる的確な証拠がない。
4 原告らは,被告らが,自宅待機処分の無効確認等請求を提訴した直後の平成9年11月6日中に,群馬弁護士会館内において記者会見を開き,マスコミ7,8社の記者らに対し,原告中村が原告学園の資金を私的に流用している旨を公言し,更に証拠がある旨も付加して強調し,請求書等の書類の写しを配付しては,その文書が原告中村が原告中村が(ママ)自宅の改築資金を原告学園の資金から流用した証拠である旨を申し立てたと主張する。
被告らが,右提訴をした直後の平成9年11月6日中に,群馬弁護士会館内において記者会見を開き,訴訟代理人弁護士らを通じて,マスコミ各社の記者らに対し,右提訴にかかる訴状写しを配付するとともに,訴状添付の証拠方法の一部を提示しながら,訴状の記載内容等を説明したことは,前記一7(一)のとおりである。
しかしながら,その際,被告らが,原告中村が原告学園の資金を私的に流用している旨を公言し,更に証拠がある旨も付加して強調し,請求書等の書類の写しが原告中村が原告中村が(ママ)自宅の改築資金を原告学園の資金から流用した証拠である旨を申し立てたことについては,これを認めるに足りる的確な証拠がない。
5 なお,被告らは,A工営が高進舘2号館,3号舘の改修工事をしていないのに,その代金を装って原告中村が原告学園の会計から670万円をA工営社長に渡した(不正経理問題)と主張する。
しかしながら,(証拠略),原告中村の尋問の結果によれば,A工営は高進舘2号館,3号舘の改修工事をしたことが認められるから,被告らの右主張は採用することができない。
三 そこで,前記一の事実に基づいて検討する。
1 被告らの前記一3の行為について
被告らは,平成9年7月7日午後3時30分ころ,群馬英数学舘理事長室において,原告中村外3名に対し,突然に面談を要求したうえ,本件文書1ないしこれに類似した文書,本件文書2,3をそれぞれ席上配付して,即刻理事等を辞任するよう要求し,用意していた辞任届ないし退職届を配って署名するよう迫り,中井が辞任すると申し出たが,被告らは,原告中村外3名の全員が辞任することを要求して譲らず,その要求する原告中村外3名の辞任が受け入れられない場合には,本件文書1ないしそれに類似する文書,本件文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなど言って,一旦帰宅した後,再び右理事長室を訪ねたが,引き続き原告中村外3名が理事等を辞任することを要求して譲らず,原告中村外3名が右要求を拒否したことから,平行線をたどり,結局,午後11時45分ころ,面談は決裂したものである。
被告らの右行為は,それ自体では,未だ原告らの社会的信用ないし評価を低下させ,侵害したものとはいえず,原告らの名誉を毀損したものであるとは認め難い。
しかしながら,被告らの右行為は,原告学園に勤務する職員として,その理事長ないし理事について適性があるか否か等の評価,更には退陣が相当か否か等について意見を陳述するという域をはるかに超えたものであって,原告学園の然るべき機関,委員会,会議等における右の点についての審議検討を経ないで,直接にかつ唐突に原告学園の理事である原告中村外3名に対してその辞任を迫り,右辞任が受け入れられない場合には,本件文書1ないしそれに類似する文書,本件文書2に記載された不正経理問題等をマスコミに公表するなど言って,右辞任を強要し,これをその場において一気に貫徹しようとしたものであって,原告学園における職場秩序を乱し,もしくはこれを危うくしたものであり,原告学園のみならず,原告中村に対しても違法性を帯びたものであったというべきである。
従って,被告らの右行為は,原告らに対する共同不法行為となると認められる。
右共同不法行為による原告らの右精神的苦痛を慰謝するための損害賠償額は,それぞれ100万円が相当と認められる。
2 被告らの前記一4の行為は,原告らの名誉を毀損するものとは認められず,その他,違法なところは認められないから,原告らに対する不法行為であるとはいえない。
3 被告らの前記一6の提訴は,その提訴にかかる訴状が不正経理問題について前記一6の言及をしていること等を考慮に入れても,訴訟行為として適法なものと認められるところ,被告らの前記一7(一)の記者会見における行為は,その提訴にかかる訴状記載等を説明したにとどまり,違法性を欠くものと認められ,原告らに対する不法行為ということはできない。
第三 よって,原告学園の本訴請求は,被告らに対し,連帯して前記慰謝料100あ(ママ)万円及びこれに対する不法行為後である平成10年2月12日から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,原告中村の本訴請求も,被告らに対し,連帯して前記慰謝料100万円及びこれに対する右同日から完済まで右割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判官 村田達生)